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仮説の冒険 吉田 司

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「緑の党」を生んだ国の原罪

東日本大震災から約2か月半、今日もまだテレビや新聞には「がんばれ日本」の団結スローガン=「ひとつになろう、日本」「ニッポンはひとつのチームです」(人気サッカー選手の言葉)の言葉や声が溢れている。どうしてみんなそんなに〈ひとつ〉になりたいのだろう!?

歴史的に見たってこの日本列島や日本民族全体で〈ひとつ〉になったことなどほとんどないんだぜ。いつも群雄割拠だった。戦後日本の原子力利用についてだって、世論はしばしば分裂していたし、負け続けてきたとはいえ、反原爆の平和運動や反原発などの環境市民デモの列もずっと存在した。

だからそうした民衆・市民がまるで存在しなかったかのように語られる、最近のジャーナリズム「国難」論にはうんざりするのさ。

たとえば、朝日新聞のオピニオン欄(5月13日)はドイツ・ミュンヘン大学の社会学者ウルリッヒ・ベック(『世界リスク社会論』著者)にこう語らせている。

------第2次世界大戦後、日本の政治指導者たちは原子力を国家再建の柱の一つと考えました。しかし福島の事故では、それが国家にとって脅威ともなっています。
「昨年の秋、私は広島の平和記念資料館を訪れ感銘を受けました。原爆がどんな結果をもたらすかを知り、世界の良心の声となって核兵器廃絶を呼びかけながら、どうして日本が、原子力に投資し原発を建設してきたのか。疑問に感じました」


そしてね、ウルリッヒはこう結論づける。

「ドイツには環境問題について強い市民社会、市民運動があります。緑の党もそこから生まれました。……市民運動がないと、産業界と政府の間に強い直接的な結びつきができる。そこには市民は不在で透明性にも欠け、意思決定は両者の密接な連携のもとに行われてしまいます」


そんなことは百も承知だよ、ウルリッヒさん。日本にも市民運動はある。だけど、政・官・財・学と地方自治体までが癒着した原子力独占・電力複合体ができ上がり、その電力インフラなしには便利な生活も経済成長もできないと思った原発運命共同体の国民の圧倒的な世論の力に、民衆・市民運動の側が敗れたのだ。勝てば官軍。負ければ賊軍。賊軍の論理は捨て去られた。それがすべて。負けたものが悪い……それが日本。

けれども、ウルリッヒさん、あなたが広島の平和記念資料館を訪れたのなら、語らねばならぬことはもう一つ別にあったのではありませんか。なぜなら20世紀最大の世界リスク=〈核の脅威〉を最初に生み出したのはあなた御自身の国「ナチス・ドイツ」第三帝国ではなかったのですか!? 半藤一利の『昭和史 1926---1945』から引用してみましょう。

昭和十三年十二月十七日、ドイツの物理学者オットー・ハーン博士が、実験により、ウラニウム235をウラニウム原石から分離し、そこから中性子が飛び出して、それがさらにウラニウム235を破壊する、するとまた中性子が出てきて……という分裂一つひとつにつき想像を絶する二〇〇億ボルトのエネルギーが放出される、つまり中性子によるウラン核分裂に成功したことを発表しました。原子力というものが人類の前に登場したのです。これを受けてアインシュタイン博士は、ルーズベルト米大統領に、もしこのウラニウム235の核分裂が兵器に用いられたとしたら、ほんのマッチ箱一つくらいの爆弾で戦艦を一隻撃沈できる。アメリカも直ちにこの問題を深刻に受けとめ、研究する必要があると手紙に書きました。……やがてこれが原子爆弾製造への道を切り開きました。


ですから、第二次世界大戦末期に、スターリンのソヴィエト赤軍がカチューシャ(ロケット連射砲)でナチス・ドイツ軍をなぎ倒しながらベルリン攻略をめざした時、その最大の秘密指令はナチスのカイザー・ヴィルヘルム物理研究所の「原子爆弾のノウハウ」の独占だったと、アントニー・ビーヴァー著『ベルリン陥落1945』はこう書いています。

マンハッタン計画(引用者註:アメリカの原爆製造)をコピーするソ連のこころみの障碍のひとつはウランの不足だったから、スターリンとベーリヤは研究施設と資材の接収になみなみならぬ熱意を見せ、さらにウランを処理できる科学者を確保したいと考えた。……(カイザー・ヴィルヘルム物理研究所からは)「金属ウラン二五〇キログラム、酸化ウラン三トン、重水二〇リットル」が発見された。


こうした原爆開発をめぐる国際ヘゲモニー闘争の中で、ヒロシマ・ナガサキに原爆投下が行われたのです。ですからウルリッヒさん、ドイツは「環境問題に強い」だけでなく、戦後世界の核リスク社会を生んだ原罪も背負っていると、わたしなどは思うのですが、間違いでしょうか? (つづく)
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  1. 2011/05/29(日) 00:27:49|
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